悩めるブレストに会う。今日もまたステファヌ・マラルメの「出現」の詩句が脳裏を掠めたが、オスに用はない。心はマラルメ的な蒼空、と同時に私は今すぐにでも会いたい女の名を思い浮かべて苦笑していた。その名はソフィー・マルソー。この二人がS・Mというイニシャルを共有していること気がついた瞬間、詩を天空に煌く星辰に匹敵させようとした19世紀フランスの大詩人と明らかに商業目的の恋愛映画『ラ・ブーム』で一躍名を馳せ、その後、数々の作品で裸体を晒した<大>になりきれぬ女優との間に唐突な対角線が引かれることになる。
そのイニシャルの持つ残酷さと快楽の両義的な響きに過剰に反応してしまうのは自分が日本人であり、外国語を学んでいるせいなのかどうかは分からない。ただ、マラルメを読んでフランス語を始めた人間と親密になりたいと思ったことは一度もないが、「実はソフィー・マルソーのファンでね・・・『アンナ・カレーニナ』は何度観たか、フランス語に執着しているのも彼女が話しているからかもしれないね」と打ち明ける奴は思わず抱きしめてしまいたくなる。いたとすればだが・・・

さて友よ、私はいま自室で泡立つジンジャーエールを飲みながら「祝杯」に目を通している。プレイヤード版、フォリオ文庫を共に図書館から持ち出した殊勝な研究生のお陰で原文が参照できなくては心もとなかろう。よってマラルメの名句をここに掲げる。(マラルメが目にしたら激怒するだろうが、アクサンはつけていない)

≪SALUT≫

Rien, cette ecume, vierge vers
A ne designer que la coupe;
Telle loin se noie une troupe
De sirenes mainte a l'envers.


Nous naviguons, o mes divers
Amis, moi deja sur la poupe
Vous l'avant fastueux qui coupe
Le flot de foudres et d'hivers;


Une ivresse belle m'engage
Sans craindre meme son tangage
De porter debout ce salut


Solitude, recif, etoile
A n'importe ce qui valut
Le blanc souci de notre toile.


美しいね。かといって、決して文法的な質問をして来ないように。
困ったときは<オリーブの木>に問いかけてごらん。

・・・
ふと、ペン先を見つめると空気の精が見られず、知られず、小さな舞を何度も舞っていた。
なんだ、バースデイ症候群か・・・なんと忌々しい、この季節!